補助線

ふれたものと考えたこと、それらのつながり

マッドジャーマンズ 、移民とアイデンティティ

マッドジャーマンズというまんががとても素晴らしいのでおすすめですという話。

d.hatena.ne.jp

なにより多和田葉子さんの評が的確なのでリンクからぜひ。

 

まず、青春ものとしてすごく面白く読みました。

実際の移民の方たちへのインタビューを、作者がそれらをフィクショナルな登場人物3人に再構成。それぞれの視点から、東ドイツへの移民体験が語られます。エピソードひとつひとつにリアリティがあってぐいぐい引き込まれます。とくに2章目は若いやんちゃ話って感じで勢いがあってたのしい。ナイトライダーばりの革ジャンをDIYして(ベトナム移民の人に作らせてるけど)マドンナで踊りまくる、とか最高かよ、と。

それぞれがキャラとして役割を振られているのではなく、生きた人間としての葛藤・ストラグルが描きこまれていて共感しました。

ー真面目にがんばって上司にほめられたら同僚から陰口をたたかれたり。。

ー素敵な服でキメてモテてたら差別的なやっかみを受けたり。。

ーこの人と家庭を、と思った相手と価値観/世界観が全く違うことがわかったり。。

青春の希望と挫折、アイデンティティの模索と獲得という普遍的な話となってます。

書店で見かけたとき、あらすじを読んで自身と関係ない話ーモザンビークは地図で指せないし生まれる前に東ドイツは崩壊してるしーと思っていたのですが、わたしの/われわれの話として読みました。

移民、環境と自由意志との相克と希望、といった意味で映画ブルックリンを連想したりもしました。

miyearnzzlabo.com

 

 そして、個々の人生が大元で規定されてしまう社会構造の話、の描き方と問題提起も考えさせられるものでした。モザンビークから東ドイツへ移民する理由を個人のナラティブを通して描いてるので自分ごととして伝わってきます。

国/社会の事情による移民というのは人ごとではなく、在日コリアンの方々や、北海道から上京して川崎で働いてる自分、にだって当てはまる(曽祖父世代は内地からの移民ですし)と思うと尚更。  

関連して、ルポ川崎、で登場する川崎サウスサイドの話、パンクスが根を張り共闘していく話し、なんかは二重三重に移民とアイデンティティをめぐる話としてとても興味深いです。

www.premiumcyzo.com

 

s***hole発言やDACAのニュースを見ると暗くなりますが、それに対して↓の方のようなツイートがあったりするあたり合衆国は自由の国だと思い。翻って自分の周りは。。。

身近なところのバリアをなんとかしていくしかないなと思うなど。

 

 また、やたら挿入されるアフリカの諺が実は、、というくだりもアイデンティティの根拠/暗喩の機能、を鑑みるに実に示唆的。言葉とアイデンティティの密接な関係は追って考える価値のあるところだと。

最近読んだ「台湾生まれ日本語育ち」が素晴らしかった作家温又柔の記事。
gendai.ismedia.jp

 

まんがとしても、グラフィカルな処理-構成主義的なデザイン図版の引用など-で目にも楽しく読めます。作者の方のイラストも素敵なのでカラーものも今後追ってみたいと思うなど。http://birgit-weyhe.de/illustration