補助線

ふれたものと考えたこと、それらのつながり

フィクショナルな社会と実在する社会と

休みの日に本屋でぶらぶらする時間と読む時間が7:3くらいなので、インプット(するつもり)過多、積読の山が増えるばかりだが、少しづつ読み進めてはいる。読んでいる絶対量が少ないので自然とそれぞれの本と本とがつながっていく。それでも忘れてしまうので、メモとしてのアウトプットを。

 

18年の年末に読んだ藤本和子「塩を食う女たち」がほんとうに素晴らしかった。

https://www.iwanami.co.jp/book/b427320.html

池澤夏樹氏の解説がよいのでお手に取ってケツに書いてあるそれ読んでほしいのですが、とにかく、ひとの実在を感じる。藤本和子さんの切実な思いから、聞き書きのプロジェクトが生まれ、氏の実にクリアな日本語で、肉声が聞こえてくる。まずひとりひとりの生きられた時間が伝わり、それを規定した社会を、それに抗したありかたを思う。

 

前後して岸政彦「マンゴーと手榴弾」を興味深く読む。理論的に(岸氏の)社会学の目ざすべき方向を位置づけたものだとして、「塩を食う女たち」はその最良の実践であると思う。

https://www.amazon.co.jp/%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%B4%E3%83%BC%E3%81%A8%E6%89%8B%E6%A6%B4%E5%BC%BE-%E7%94%9F%E6%B4%BB%E5%8F%B2%E3%81%AE%E7%90%86%E8%AB%96-%E3%81%91%E3%81%84%E3%81%9D%E3%81%86%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9-%E5%B2%B8-%E6%94%BF%E5%BD%A6/dp/4326654147

記述対象を、カテゴリから外しかつそのカテゴリの実態としてとらえること。

 

すぐれた「声」の集積として、以下も読み進め途中。

・ニケシュ・シュクラ「よい移民」

https://www.sogensha.co.jp/productlist?author_id=7446

・リン・ディン「アメリカ死にかけ物語」

http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309227511/

http://linhdinhphotos.blogspot.com/

 

東京堂神保町本店で推されていたブレイディみかこ「ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー」を読み、イギリスのティーンの現実に目を見張る。差別的な言動をしてしまう移民の子が非リベラルとむしろいじめられる、そしてそれをブルーカラー×アジア系のミックスの「いいこ」の子供がかばう、ことは30すぎたおっさんとしてはくらくらしてしまうようなねじれた構図にみえるがこれは現実である。

https://www.shinchosha.co.jp/ywbg/

ぜひ1章試し読んでいただきたい。コラムとしても毎回オチの切れ味に鳥肌。半端ない面白い。またブレイディ氏の母ちゃんとしてのリアルなモラリティに勇気づけられる。「多様性はめんどくさい、めんどくさいが無知を減らす点で有効である」これが船橋のときわ書房でも展開されていてうれしく思う。

 

同じく船橋のときわ書房で綿野恵太「差別はいけない、とみんな言うけれど」を購入。

https://www.heibonsha.co.jp/book/b455002.html 

ポリティカルコレクトネスがなぜワークしないか?それが前提として仮構している

a)「自律した市民」b)「平等」概念が空手形と化しているから、という指摘に首肯しながら、ではどうするか?を考える。

 

感情に駆られてスケープゴートを焼くのでなく、できることはまずは具体的に何が起きているかを知りたいと、以下を読む。

・望月優大「ふたつの日本」で【移民問題】の現状を。

https://www.amazon.co.jp/%E3%81%B5%E3%81%9F%E3%81%A4%E3%81%AE%E6%97%A5%E6%9C%AC-%E3%80%8C%E7%A7%BB%E6%B0%91%E5%9B%BD%E5%AE%B6%E3%80%8D%E3%81%AE%E5%BB%BA%E5%89%8D%E3%81%A8%E7%8F%BE%E5%AE%9F-%E8%AC%9B%E8%AB%87%E7%A4%BE%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E6%9C%9B%E6%9C%88-%E5%84%AA%E5%A4%A7/dp/4065151104

小熊英二「日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学」で社会構造を。

https://www.amazon.co.jp/dp/4065154294

https://note.mu/hoshinomaki/n/ne8e4178b886f 

 

差別的に勝手にジャッジしてくるやつらに対して、具体的に抗するあり方を、おもしろに包んでサバイブしていく人たちに勇気づけられながら。

・つづ井「裸一貫!つづ井さん」

https://crea.bunshun.jp/articles/-/22579

https://note.mu/happyhappylove/n/n28f73ff5cdce

・王谷晶「どうせカラダが目当てでしょ」

http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309027944/ 

https://cakes.mu/series/4143

 

【社会】の構築について、理論的にどう抗していくかについては、「社会学はどこから来てどこへ行くのか」を読み進め中。【社会】に、【市民】として、実感をもって生きることはできないかなと。http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641174412

 

中動態、ナッジ、空気

今更ながら「中動態の世界」を読んだ。

中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく) - はてなキーワード

意志の不可能性を指摘するにとどまらず、その先、自由に行動するにはどうすればよいのか?まで深めているのがすごく面白い。

「わたし」のありようは自由と強制のはざまにあり割り切れるものではない。

ということを思弁的に厳密に導いていて、この立場に立たないと見えないものがたくさんあるなと思う。

 

たとえば投票。「PHY-OP」されたうえで「自らの意志」で投票している。

なんかもう当たり前みたいになってるけど、Facebookのデータと広告だけで人の行動を変えられるのすごくないか - 未翻訳ブックレビュー

しかも、そのオペレーションは、洗練された物語に頼らず、心の構造をブラックボックスにぶっこんで、とにかく行動にフォーカスし、徹底的に統計的な処理を施したうえで割り出されてきた即物的なものだ。イスラエルが憎い、にlikeしたやつはキットカットとナイキもlikeしている。広告を打とう。

 

ABテストと結果の統計処理によって割り出し、"ナッジ"により合理的な選択を、

というのは意志を素直に信じているとショッキングだし倫理にもとる、と思いがちなのだけれど、どうしたってこっちが真実味がある。

グーグルでは「Optimise your life」部門が社内の年金の選択や食事メニューの選択の最適化を推進している。われわれの自由意思に基づく選択は必ずしも合理的ではない。https://www.amazon.co.jp/%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%BA%EF%BC%81%E2%80%95%E5%90%9B%E3%81%AE%E7%94%9F%E3%81%8D%E6%96%B9%E3%81%A8%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%83%E3%83%97%E3%82%92%E5%A4%89%E3%81%88%E3%82%8B-%E3%83%A9%E3%82%BA%E3%83%AD%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%83%83%E3%82%AF/dp/4492533656

 

空気を読むというのも自発と強制のあわいにあるものだと思うと通りがよくなる。

空気の検閲 辻田真佐憲 | 光文社新書 | 光文社

この本でも最後に「システムによる検閲」に触れられていて、それが完ぺきな検閲をもたらす可能性で結ばれている。全然地続きな話だ。

 

しかし、それでも、意志と責任というフィクションは便利だし魅力的で都合がいい。

このあたりのどうしても「主体」を仮構してしまう自分、に自覚的であるにはどうしたらよいのかしら。と思うとそのバグを客観視するセーフティネットが笑いだったりするのかもしれないと思いますがそれはまた別の話。

ヒトはなぜ笑うのか|サポートページ

マッドジャーマンズ 、移民とアイデンティティ

マッドジャーマンズというまんががとても素晴らしいのでおすすめですという話。

d.hatena.ne.jp

なにより多和田葉子さんの評が的確なのでリンクからぜひ。

 

まず、青春ものとしてすごく面白く読みました。

実際の移民の方たちへのインタビューを、作者がそれらをフィクショナルな登場人物3人に再構成。それぞれの視点から、東ドイツへの移民体験が語られます。エピソードひとつひとつにリアリティがあってぐいぐい引き込まれます。とくに2章目は若いやんちゃ話って感じで勢いがあってたのしい。ナイトライダーばりの革ジャンをDIYして(ベトナム移民の人に作らせてるけど)マドンナで踊りまくる、とか最高かよ、と。

それぞれがキャラとして役割を振られているのではなく、生きた人間としての葛藤・ストラグルが描きこまれていて共感しました。

ー真面目にがんばって上司にほめられたら同僚から陰口をたたかれたり。。

ー素敵な服でキメてモテてたら差別的なやっかみを受けたり。。

ーこの人と家庭を、と思った相手と価値観/世界観が全く違うことがわかったり。。

青春の希望と挫折、アイデンティティの模索と獲得という普遍的な話となってます。

書店で見かけたとき、あらすじを読んで自身と関係ない話ーモザンビークは地図で指せないし生まれる前に東ドイツは崩壊してるしーと思っていたのですが、わたしの/われわれの話として読みました。

移民、環境と自由意志との相克と希望、といった意味で映画ブルックリンを連想したりもしました。

miyearnzzlabo.com

 

 そして、個々の人生が大元で規定されてしまう社会構造の話、の描き方と問題提起も考えさせられるものでした。モザンビークから東ドイツへ移民する理由を個人のナラティブを通して描いてるので自分ごととして伝わってきます。

国/社会の事情による移民というのは人ごとではなく、在日コリアンの方々や、北海道から上京して川崎で働いてる自分、にだって当てはまる(曽祖父世代は内地からの移民ですし)と思うと尚更。  

関連して、ルポ川崎、で登場する川崎サウスサイドの話、パンクスが根を張り共闘していく話し、なんかは二重三重に移民とアイデンティティをめぐる話としてとても興味深いです。

www.premiumcyzo.com

 

s***hole発言やDACAのニュースを見ると暗くなりますが、それに対して↓の方のようなツイートがあったりするあたり合衆国は自由の国だと思い。翻って自分の周りは。。。

身近なところのバリアをなんとかしていくしかないなと思うなど。

 

 また、やたら挿入されるアフリカの諺が実は、、というくだりもアイデンティティの根拠/暗喩の機能、を鑑みるに実に示唆的。言葉とアイデンティティの密接な関係は追って考える価値のあるところだと。

最近読んだ「台湾生まれ日本語育ち」が素晴らしかった作家温又柔の記事。
gendai.ismedia.jp

 

まんがとしても、グラフィカルな処理-構成主義的なデザイン図版の引用など-で目にも楽しく読めます。作者の方のイラストも素敵なのでカラーものも今後追ってみたいと思うなど。http://birgit-weyhe.de/illustration